日本の伝統芸能、人形浄瑠璃文楽(にんぎょうじょうるりぶんらく/以下、文楽)では大変珍しい親子共演が、2021年10月11日に吹田メイシアターで行われます。吹田市在住の吉田一輔(よしだ・いちすけ)さんと、息子の吉田簑悠(よしだ・みのひさ)さんが、それぞれ主役として相手役を務めます。
(C)桂 秀也
文楽とは、とても簡単に言ってしまえば、ストーリーテラー兼、声優である「太夫(たゆう)」の声と、BGMである「三味線(しゃみせん)」の音に乗せた人形芝居です。何といってもユニークなのは「1体の人形を3人掛かりで操る」ところです。
(1)人形のかしら(首)と右手を操る「主遣い(おもづかい)」の人。
(2)人形の左手を操る「左遣い」の人。
(3)人形の両足を操る「足遣い」の人。
この3人で、息をピッタリ合わせます(左手だけに1人が必要とは、なんて贅沢!)。3人だからこそ、1人では不可能な複雑な動きや、豊かな感情表現ができるのです。
今回、一輔さんと簑悠さんは、ともに主遣いを担います。なお、主遣いの人だけが黒い頭巾(ずきん)を被らず、素顔を見せるのもユニーク。一輔さんいわく「操る人間は、極力表情を出さないのが基本ですが、感情がこもる場面では思わず…」と明かします。
人形浄瑠璃文楽 配信プロジェクト(ABCテレビ)
人形浄瑠璃文楽とは(日本芸術文化振興会)
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一輔さん(ちなみにお2人とも芸名)によると「人形遣いの修業は、足(遣い)15年、左(遣い)15年とも言われる非常に長い道のり」です。
通常は、足遣い、左遣いの下積みを経て、主遣いに ‘ステップアップ’ します。そのため、師匠や親が主遣いの舞台では、弟子や子は足を遣うのが普通です。
ですから今回、キャリア38年目の一輔さんと、7年目の簑悠さん「揃っての顔出し」は、キャリア的にも、親子関係という意味でも、大変珍しいのです。
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実は8月7日、国立文楽劇場で一足先に、一輔・簑悠親子の初共演が実現しています。(一輔さんは、お父さんの桐竹一暢(きりたけ・いっちょう/故人)さんと、国立文楽劇場での共演は1度もありません)
その日の夜、帰宅した簑悠さんは一輔さんに「今日の芝居は如何でしたか」と意見を求め、細部について指導を仰いだそうです。
これも珍しいことで、一輔さんは「2人は簑助(人間国宝・吉田簑助)の弟子で、兄弟弟子という関係ではありますが、親子ということもあり、普段は楽屋でも細かな指導を行うことはほとんどありません。芝居の上達は『遠回りが一番の近道』で、手取り足取り教えても、本人にとって何も良いことはありませんから」と厳しい顔を覗かせます。
初の親子共演を果たした吉田一輔さん(左)と簑悠さん(2021年8月7日、国立文楽劇場の楽屋。写真の一部加工)
でも今回は「相手役になりますので、そこは遠慮なく、簑悠もここぞとばかりにどんどん聞いてきます。こちらとしてもうれしいですし、自らも気の引き締まる思いです」と本心を聞かせてくれました。
一方、簑悠さんは「父は目標であり、尊敬する兄弟子です。普段は何も言わなくても、私が演じる舞台をさりげなく袖から観てくれているのも感じていますし、感謝しています」と、静かな絆の強さを感じさせます。
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今回の上演は『傾城(けいせい)阿波の鳴門・順礼歌の段』。長年離ればなれだった母(お弓=一輔さん)と娘(おつる=簑悠さん)が涙の再会。わが子を思う母親の愛情と葛藤を描く名場面です。
(C)桂 秀也
一輔さんは「実の親子が親子役を演じることで、本当の親子の情愛が、より鮮明に表現できるのではないかと楽しみにしております」。
簑悠さんは「今回、生まれ育った吹田の地で、こうして親子で共演させていただけることを本当にうれしく思います。地元の皆様へ感謝の気持ちを込めて、より一層成長できるような舞台にします」と話します。
親子共演のチラシ(吹田市文化会館メイシアター)
メイシアター チケット購入サイト(外部サイト)
吉田一輔(父)
【芸歴】
昭和58年 父、桐竹一暢に入門、桐竹一輔と名のる(13歳)
昭和60年 4月 国立文楽劇場で初舞台
平成16年 5月 三代吉田簑助門下となり、吉田姓を名のる
【受賞歴】
平成17年 4月 第33回(平成16年)文楽協会賞
平成19年 1月 平成17年度因協会奨励賞
平成21年 4月 第28回(平成20年)国立劇場文楽賞文楽奨励賞
平成22年 2月 平成21年度咲くやこの花賞
平成22年 8月 大阪文化祭賞奨励賞
平成24年11月 十三夜会賞
平成25年 9月 平成25年度大阪文化祭グランプリ
令和 2年 3月 令和元年度大阪文化祭賞<第一部門>
吉田簑悠(息子)
【芸歴】
平成25年11月 吉田簑助に入門、研究生となる(17歳)
平成26年 4月 吉田簑悠と名乗る
平成26年11月 国立文楽劇場で初舞台
【受賞歴】
令和 2年 3月 令和元年度大阪文化祭賞<第一部門>